ベンチャーのすすめ

 こんにちは、ヒカルです。ベンチャー企業には、大成功する企業もありますが、うまくいかない企業もたくさんあります。

 「頭のいい人」は、ベンチャー企業に挑戦するリスクを客観的にとらえることができますから、「ベンチャー企業なんて失敗する確率の方が高い」と考えて、「だから起業なんてバカバカしいのさ(ケッ!)」と考えたりします。

 しかし、分析は正しくても、その結論は必ずしも普遍的なものじゃないんじゃないかと思います。

 簡単な例で考えてみましょう。

 「世の中を変えるような画期的なことをしたい」という会社が10社設立されました。しかし、結果として大きく育って上場したのは1社だけで、なんとか食えている会社が3社、残りの6社は途中で事業をやめてしまったとします。

 この事実を見て、
「大成功するベンチャー企業なんて、ごく一握りだ」
「大半の企業は失敗する」

 というのは、客観的な話であって、異論の余地がありません。

 しかし、こうした事実から、「だからベンチャー企業にチャレンジするなんてバカバカしい」という結論を導き出すかどうかは、また別の話です。

 同じことを今度は金額ベースで考えてみましょう。
ベンチャーにチャレンジする意味は、お金だけではありませんけどね。)

 この10社すべてに、1000万円の資金が投下されたとします。つまり、全部で1億円の投資です。

 6社はツブれてしまったのでリターンはゼロ。(ベンチャー企業というのは、失敗するとたいてい後には何も残りません)。3社は1000万円が1.2倍になっただけ。しかし、大成功した1社の価値は元の200倍になったとします。

 つまり、企業価値の合計は20億3600万円になったわけです。元々投資した資金は1億円ですから、20.36倍になったわけですね。

 (数学で習ったことを思い出していただくと、「成功するかどうか」というのは「確率」の話、「全体で価値が増えるかどうか」をベースに考えるのは「期待値」の話です。)

 つまり、個別の企業が成功するかどうかはさておき、この例のようなチャレンジャーが現れれば、社会全体としての価値の総量は増えるわけです。

 しかし、評論家的な人は、「日本じゃベンチャー企業なんて成功しませんよ」と言っておいた方がいい。なぜなら、成功する企業が現れても何のリターンも無い「口だけ」の人なら、失敗する方に賭けた方がたくさん当たって賢く見えますので。

 だから、そういう意見のほうをよく聞く社会は、衰退していくはずです。つまり、こうした確率は低いけど期待値は高い領域の場合、実際にリスクを負ってビジネスをやってる人の話を聞かないといけません。

 他にもいろいろ反論は考えられます。

 ちょっと経済学や金融の常識がある人なら「その例に使われている数字にはマヤカシがある」と言うかも知れません。

 「全体で価値が20倍になるということは、利益が1900%もあるということだ。銀行の預金の利率が1%を切っているような時代に、そんなウマい話があるわけがない。そんなに儲かるなら、裁定する力が働いて利回りはもっと低くなっているはずだ。」

 「ベンチャー投資が社会全体でそんなに割がいいなら、ベンチャーキャピタルも儲かるはずだ。しかし、日本のベンチャーキャピタルはみんな非常に苦労してるじゃないか。」


東証マザーズに新規上場したミクシィが初値で295万円を付けたことを知らせる電光掲示板(2006年9月)。上場初日は買い注文が殺到し、売買が成立しなかったが、翌日の終値は312万円で、時価総額は2199億円になった
 それはおおむね正しいです。「単に資金を出す投資家」の話だとすれば。

 実は、先ほど掲げた例は、基本的にはベンチャー企業を立ち上げて経営する創業者を念頭に置いています。

 仮に、500万円で設立した会社が上場して時価総額が100億円になり、創業者がその株式の半分を持っていたとしたら、投資した金額は1000倍になるわけです。1000億円なら1万倍。昨今は、よくある話で、あまり不思議ではありません。

 バイオなど、業種によっては巨額の資金を必要とするベンチャー企業もありますが、特にITベンチャーなどは昨今、初期に必要な資金が非常に小さくなってます。

 つまり、資金調達はマクロ的に見ればベンチャー側に有利になりつつあり、 単に資金だけを提供する投資家がオイシイ条件で投資させてもらえる可能性は相対的に低くなっています。(当然ですね。)

 日本の創業者はアメリカの創業者に比べて他人に持ち分を渡すことに慎重ですし、上場時に暗黙に求められる安定株主の比率はアメリカより高めだと思います。結果として、社会全体でベンチャー企業が生み出す価値は、投資家より創業者に厚めに分配されることになるわけです。

 (それでも、ミクシィやグリーに投資した投資家は、世界でもなかなか見かけない数百倍というリターンを得ましたので、「日本のベンチャー界はアメリカと違って投資家にチャンスが無い」というのもウソだと思います。)

 失敗した場合のダメージに着目した反論をする人も多いと思います。

 「その例は、失敗しても『ゼロ』という想定だが、実際には、日本では失敗した人には大きなマイナスが付くはずだ。」と。

 確かに、成功した場合は青天井だが、失敗した場合も同様に奈落の底が待っているとしたら、期待値も上がりません。しかし、「成功するかどうか」のコントロールは難しいですが、「失敗した時に最悪の事態にならないようにする」ことは、技術でカバーできる面が大きいのです。

 ドラクエドラゴンクエスト)などのゲームで、「死ぬのが怖いからボスキャラと戦うのはやめておこう」という人はいません。なぜかというと、「死んでも大したことにならない」ことがわかっているからです。

 同様に、「ベンチャーを起業して失敗しても大したことにならない」ための知識が広まれば、起業にチャレンジする人も増え、イノベーションが起こって沈滞したムードも吹っ飛び、雇用も増え、創業者も投資家も金銭的に潤って、社会全体がハッピーになるはずです。