時代の潮目を変えなければ、ブランド足り得ない

名作には発表された当時の社会性や空気感が備わっています。だからデザインの歴史が顧みられるたびに、ブランドの存在感も自然に高まっていきます

この“椅子”は、家具ブランドにとっては、かなりの変化球と言えます。1試合に1球、投げるかどうか。そんな魔球のようなものです。しかし、こうした製品がブランドの姿勢を伝えたり、名前を売ったりすることがあります

従来の椅子とは似ても似つかないこの製品が、無数の椅子をわずかにデザインを変えながら発表し続ける家具産業への批評にも見えてきます。また、このデザインのインスピレーションの源になったのは、中南米インディオが伝統的に使っている道具でした。素材にはヴィトラの工場で出る端材を活用するなど、エコロジーへの配慮もあります。1つのアイテムに、様々なメッセージが詰め込まれているのです。

「あのChairlessがターニングポイントだった」と言われるようになります

そのためには新しい素材や技術の開発が必要になることも多く、どうしてもコストがかかりますが、斬新な商品である以上は、元が取れるとは限りません。つまり「売れない」というリスクを認識しながら、ブランドはそこに挑むわけです。

この椅子に備わった歴史を大切に考えているからです。

まず全体の流れとしては、クライアントとの出会いがあり、オリエンやその後のミーティングでのやり取りを手がかりとして、こちらからアイデアを提案します。今まで仕事をしたことのないクライアントに対して、自分たちから営業を仕掛けることは基本的にありません。求められていないところに入り込もうと時間を費やすより、進行中のプロジェクトに少しでも長い時間かかわりたいという思いが根底にあります。

そのアイデアを実現するための技術や製造面の調整と対外的なコミュニケーションの仕方も平行して検討されていきます。

nendoは、クライアントに対するプレゼンをする際に、ごく簡単なスケッチを見せながら口頭でデザインを説明します。それがアイデアを率直に伝えるのに最適な方法だからです。

また事務所の規模が小さくても、必要に応じてほかの事務所などとチームを組めばいい。クライアント側にサポート体制がなくても、横の連携によって大規模なプロジェクトでも進行することが可能なのです。

常に違和感なく馴染む感覚を大切にして、触感やディテールに気を配り、無意識の心地よさを使い手に与える

デザインとは、デザイナーの個性の表現だと思っている人が、まだまだ多いのが実情です。しかしデザインの最も大きな存在意義は、問題解決です。クライアントから提示されたり、デザイナー自身が気づいたりした課題を、どうやってロジカルに解決していくか。これこそが、デザイナーにとっての至上命題なのです。

しかし伝統工芸の要素が、最新の科学技術を超えた何かを作り出せることもあります。九谷焼の基板は、器という姿にこだわらず、工芸とテクノロジーを融合させることで、伝統の変化を促したいと考えた結果です。問題解決ではなく、問題を提起するためのデザインと言えるでしょう。これもまた、デザイナーの大切な役割に違いありません。