企業内社会起業家

企業が自社商品を通じて、社会貢献をする動きが広がっています。取り組みのキーマンとなる「企業内社会起業家」と呼ばれる人たちも生まれています。

トイレットペーパーやティッシュを製造する「王子ネピア」の商品企画部長、今(こん)敏之さん(50)はここ数年、東南アジアにある東ティモールの農村部を毎年訪ねている。
同社は2008年から、特定商品の売り上げの一部をユニセフに寄付し、そのお金でユニセフが、同国のNGOと衛生教育を広め、トイレの整備に取り組んでいる。今さんは、その「nepia千のトイレプロジェクト」のリーダーだ。
「うちのトイレを見に来てくれ。毎日2回掃除してるから、きれいなんだ」
進み具合を見に現地へ赴くと、たちまち「トイレ自慢」が始まる。穴を掘って便器を置き、周りを竹で囲った簡易なトイレだが、大切に使っている様子が伝わってきた。
排泄(はいせつ)の大切さを国内の小学生に伝える活動をしてきた。それを知った日本ユニセフが、トイレの普及が遅れ、飲み水の汚染で子どもたちに下痢などの健康被害が出ている同国でのトイレ整備を持ちかけた。
今さんがプロジェクトを社内で提案した時期は、原油高騰で会社の収益が圧迫されていたころ。「こんな時になぜ寄付なのか」と反対が強かった。それを、テレビ広告費を削る形で実現させた。
「商品を広告で選んでもらうか、社会に信頼されて選んでもらうか。広告にかける費用が他の企業にかなわないなら、排泄に関係する『便所紙(べんじょがみ)屋』として何ができるのか。企業の志(こころざし)が大事だと思うんです」
10年のキャンペーンは9〜12月で16商品が対象。売り上げは好調で寄付金は2400万円を超えた。1千家庭のトイレを作り、五つの学校で修繕する予定だ。

森永製菓の、チョコレート1個につき1円を寄付するキャンペーン「1チョコfor1スマイル」も4年目。今年は、ガーナの児童労働問題に取り組むNPOなどに寄付する。
企業の経済活動には、いろいろな人が絡む。原材料を生産する途上国の人、加工して付加価値をつける工場の従業員、商品を購入する消費者。「そうした人たちをつなぎ、企業の発展が社会の豊かさにつながるような、新しい支援の形を目指したい」。当初から参加する菓子マーケティング部のチョコレート担当、桜木孝典さん(39)は話す。
企業が、社会問題の解決といった大義(コーズ)をアピールし、社会貢献とビジネスを両立させようとする手法は「コーズ・リレーティッド・マーケティング(CRM)」と呼ばれる。

CRMを研究する団体「コーズブランド・ラボ」代表の野村尚克さん(38)は、今さんや桜木さんのような仕掛け人を「企業内社会起業家」と呼ぶ。
「困っている人を助けたいという思いを、会社にいながら実現させようとする彼らの姿勢が、企業が社会的責任を重視するようになったことと重なった。消費者も、企業がどんな思いで商品を作ったのかを知りたがっており、思いに共感した人が購入している」。野村さんはそう分析する。

日本ファンドレイジング協会が発行した「寄付白書2010」によると、寄付の手段の内訳で「寄付付き商品」は7・5%。「CRMが盛んな米国は、寄付付き商品がすでに飽和状態だと聞く。日本はこれからもっと増えるだろう」(事務局)という。

無印良品」で知られる良品計画も、寄付付き商品やフェアトレード商品を出している。環境広報担当課長の赤峰貴子さん(44)が、社員の提案を形にする役割を担う。
「子どもの絵を使ったバッグを作りたい」。男性社員の漠然としたアイデアからできたのが「子どもの絵マイバッグ」。戦争や病気で苦しむ子どもに画材や薬を提供するNPO法人「子供地球基金」が集めている子どもたちの絵を使った。バッグの売り上げの一部を同基金に収めている。「寄付が目的で商品を買った人ばかりではないでしょう。それでもいろんな問題を知るきっかけになればいいと思っています」