不安の反対側に位置するストレス対処力(SOC)

生きる力とは、このコラムで何回も取り上げているストレス対処力(SOC:sense of coherence)である。それは、「どんな状況の中でも、半歩でも、4分の1歩でもいいから、前に進もうとする、前向きな力」だ。
SOCは、イスラエルの健康社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士が提唱した概念だ。信頼性と妥当性が確認され、世界各地で使われている13項目の質問によって、個人のSOCを測定することができる。
SOCの高い人は、さまざまな健康に関する要因を予測する力が高い。例えば、SOCの高い人ほど、ストレスにうまく対処し、健康を保つことができる。抑うつや不安、頭痛・腹痛などのストレス関連症状だけでなく、欠勤などをも予測する。SOCの高い人ほど、仕事上の疲労感が少なく、バーンアウトを起こしにくく、職務満足感が高いことも確認されている。

欧米で行われた10年間の追跡調査では、SOCの高い人は低い人に比べて10年後の精神健康が良好であることも確かめられている。SOCが寿命を予測するとの研究結果もある。
そんなさまざまな人間の健康と関連の深い「半歩でも前に進もうとする前向きな力であるSOCとは、いったい何なのか?」
そして、最近になってやっとその正体が分かってきた。さまざまな調査結果から、SOCが“不安”の反対側に位置する力であることが見えてきたのである。
SOCの高い人は他人の力をうまく借りる
SOCの高い人は、大きな危機に遭遇した時、それを脅威ではなく『自分に対する挑戦だ』と考えることができる。それは、すべての危機に対してではない。自分の人生にとって意味ある出来事、あるいは大切な出来事に関する危機の場合に、「これは挑戦だから、どうにかして対峙してやる」と踏ん張ることができるのである。
挑戦と認知するために、彼らはまず自分が感じた不安が、いったい何に由来するものなのかを突き止める。

例えば、お相撲さんが「十両から転落するかも」という不安を感じた場合を例に考えてみよう。SOCの高い人は、「十両から転落するかも」という漠然とした不安を感じた時、その不安の正体を突き止める。

つまり、
・自分の体力に対する不安なのか?
・自分の技の少なさに対する不安なのか?
・強い相手と対戦することの不安なのか?
 と何度も何度も自問するのだ。

・もし、体力に対する不安であれば、
  体力を向上させるにはどうしたらいいかを考え、
・もし、技の少なさに対する不安であれば、
  技の質を少しでも極めるにはどうしたらいいかを模索し、
・もし、強い相手と対戦することの不安であれば、
  その相手の弱点を徹底的に調べ上げる。

具体的に不安のもとを見つけ、後は徹底的に克服するように稽古に励む。しかも多くの場合、SOCの高い人は、自分1人で頑張るのではなく、他人の力をうまく使う。
「自分1人でできることには限界がある」と素直に認め、先輩に教えを請うたり、1人で稽古するのが心細ければ、一緒に稽古してもらうこともある。

そして、徹底的に不安を打ち消すための作業(この場合は稽古)に励み、最後は「これだけやったんだから、大丈夫だ。自分にはできる」と、自分を信じて本番に臨む。